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第165話

「失礼ですが…保護者の方ですか?息子さん優秀なんですね」 「…え?」 「S特の保護者のお席にいらしたので」 「…はぁ…」 さりげなく空いていた俺の隣の席に手を置き腰を下ろす。 「高校からこちらに?」 「ええ、まぁ…」 「随分立派なカメラをお持ちなんですね」 「……はぁ…」 何だろう…この人やけに絡んでくるなぁ。 真正面ではなく隣に座っているからまだいいが、それでも妙な居心地の悪さを感じてしまう。 「あの、そろそろ失礼します」 「…そうですか。もう少しお話したかったのですが…」 ゾクッ。 切れ長の目がこっちを見てる…。 俺はその目から逃げるようにラウンジを後にし、校舎から中庭に出た。 木の下に背中合わせに置かれたベンチに座って古びた校舎を眺める。 「そういえば創立百ン十年って言ってたな」 重厚な造りで石壁の外観。 耐震的には補強工事も完了してるって聞いたけど…。 そんな事をぼんやりと考えていた…。 「郁哉、寝てんの?」 体を揺すられて重い瞼を開けば涼真と真咲が俺の顔を覗き込んでいた。 「え、何?ね…寝てた?」 「この陽気じゃしょうがないんじゃないかな」 「とと、恥ずかしよ。後ろにいた人も笑ってたよ?」 「…マジ?」 慌てて口元を拭ってみたが、大丈夫、涎は垂れてない! 「さ〜て、どっかで美味い昼メシ食ってから帰ろうぜ」 「父さん、何食べるの?」 「郁弥の奢りで!」 「よし、真咲はなにが食べたい?」 「僕は…」 二人の楽しそうな顔を見て、さっきあった事を俺はすぐに忘れた。

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