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第166話
「真咲は?」
「部屋で勉強するってさ」
「え、今日は入学式だったよな?」
「…そんなに頑張らなくてもいいのに、…って親にあるまじき発言だよな」
笑ってそう言う涼真は俺にコーヒーを差し出した。
カップから立ち上る湯気が鼻孔を擽る。
入学式の後、せっかくだからと俺はステーキハウスに行く提案したが制服に匂いが着くと涼真に却下されて一度帰宅。
着替えてから少し遅い時間に店に入った。
既にランチタイムの混雑は緩和されていたようで、すぐにテーブル席に案内された。
焼きたて熱々のステーキを真咲は美味しいと言って食べてくれ、俺と涼真はそんな真咲の様子を本当に嬉しく思って見ていたんだ。
食後のデザートまで綺麗に平らげて帰宅早々に真咲は自室に篭った。
普通なら勉強するのが当たり前なんだろうけど…実の親子でない事がハッキリしても真咲はひたすら勉強を続けていた。
涼真に気を使ってなんだろうけど、俺としてももっと青春を謳歌してくれてもいいんじゃないかって思っている。
けどあの日、真咲の中で何か変化があった事も確かだ。
極力自分の為にお金を使わないようにしていた真咲が、高校は私立に進学したいと言ったのだ。
そこは夏羽が通っている学校で、超がつく程の進学校。
ま、ウチの真咲は全国模試でもトップレベルだからな。
厳しいと言われる入試だって難なくクリア。
涼真は泣くほど喜んでいたけれど、恐らくそれは真咲がやっと遠慮なく自分の進みたい方向へと向かってくれた事に対してだと思う。
俺は涼真と同じ、真咲の将来が楽しみでならなかった。
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