177 / 322
第177話
「今日は何がなんでも早く帰る!帰るよ!」
今週中の案件が木曜〆になった。
案の定昨日も月曜日に続いて二日連続で残業した。
それは、しょうがない。
けど今日の仕事を詰めれば何とかなる。
…そう思っていた。
「な・ん・で、こんな時に中野さんが居ないんですか!」
「何でって…言ってあっただろ」
呆れた顔で俺を見る佐藤リーダー。
「…研修行くって」
「ぐぐ…」
「毎年この時期は昇格した奴らの研修に行くからなぁ」
デキる中野さんは自分の仕事を進めながら地味に色々な管理を任されている。
毎日各拠点から送られてくる営業データや売り上げ速報の纏め、佐藤さんが受けた上層部からの指示を俺たち部員への振り分け、そして…
「香束…お茶淹れて」
「…俺が…ですか?」
「そ!」
うう…この人が一番面倒なんだよ。
書類が見当たらないとかホッチキスが無いとかお茶を淹れろとか…。
「…今淹れますんで…」
「濃いやつね」
「…ハイ」
廊下に出てすぐ、誰もいない給湯室で茶筒を手に取る俺。
「あーめんど…」
「何やってんの?」
「うわぁ!」
ぼーっとしてる所に急に声を掛けられて、茶筒が宙を舞う。
「わ、わ、わ!」
「セーフ!」
逃げた茶筒を後ろからキャッチしたのは…
「涼真!」
「入るの見えたから、って郁哉新入社員みたいだな。お茶出し?」
「上司にな」
「はは、美味いの淹れてあげてよ」
「笑い事じゃねぇ。今日も残業だよ…」
「仕方ないだろ?ま、お互い頑張ろ」
ポンッと俺の肩を叩き、涼真は笑って給湯室を出て行った。
「涼真…」
…頑張れそう。
涼真に触れられた肩が、熱い。
ともだちにシェアしよう!