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第179話
「…ただいま~。わ、いい匂い」
「おかえり。もう出来るから着替えて来いよ」
「…そうする」
少し乱れた息で靴を脱ぐ。
涼真も俺と同じくはやる気持ちを抑えきれずに帰って来たのだろうか。
会社を出てすぐに残業してから帰ると涼真から連絡があり、俺はスーパーで買い物をして家で料理を作り待っていた。
涼真の部署は比較的にスケジュールが穏やかだが、いつもって訳じゃない。
普段の残業は少なめだが小さな子供のいる親が半数を占めるために突発的な休みが多い。
それを出勤者でカバーするのだからある意味瞬発力が問われる。
「今日は二人も休んじゃってさ、子供が風邪ひいたんだって。うわ、これ激ウマ!」
そう言いながら涼真はカレー味のピカタを美味そうに口に運ぶ。
疲れてる時は香辛料マシマシがいいんだ。
「大丈夫か?」
「もちろん。チームワークだけはいいからな」
そうは言ってもいきなり二人も休んだらその皺寄せは相当なものだ。
「疲れてんだろ?先に風呂入って早く休めよ」
「先に風呂には入るけど…そんなに疲れてる訳じゃない」
涼真が正面から俺をじっと見つめる。
「いや、でも明日だって休むか分からないだろ?」
「大丈夫だから…さ。ダメ?」
涼真が上目遣いで俺を見てる。
…これは…誘われてる、のかな。
「涼真がいい、…なら」
「…いいに…決まってるだろ」
「そっか、うん」
「照れんなよ、こっちまで恥ずかしい。今日の飯も美味かった、ご馳走様。俺風呂ってくるから…」
早口でそう言って涼真は席を離れた。
「さて、さっさと食器洗っちゃおっと!」
涼真と過ごす楽しいコトを妄想して、俺はいそいそと台所に立った。
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