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第189話
強い衝撃が伝わってきたが…それはあまりに漠然としていて何がどこに当たったのか酷く曖昧だった。
重怠い身体は自分の意思で操る事が出来ずただただ不快な…それでいて誘われるように意識が遠くなる…。
俺はこんな所で悠長にしてられないんだ。
早くここから離れて…
それから……
目の端に人影が映り込んだ。
何か叫んでいるようにも見えたが声は聞こえない。
「俺…帰らな…きゃ……」
ようやく出せた自分の声のたどたどしさに戸惑いを覚えたが……
…そこから全てが混濁して、俺は意識を手放した。
「…う…ッ…」
瞼をギュッと力を入れても眩しさから逃げられず、薄らゆっくりと目を開けていけば白い視界がひらけていった。
壁も天井も白く、まるで病院のよう…
「……ッ…あ…」
…病院…?
声が出ない。
出そうとしても体に力が入らないのだ。
ぼんやりする頭で記憶を辿るが…分からん。
しかし…何で?
よく見れば水分の入ったバッグから細いチューブが垂れ下がっている。
点滴…だよな…。
それならチューブの行く先は布団に隠れて見えはしないが恐らく俺。
目を動かすのも億劫で首も腕も自分では動かせそうもない。
…どうしちゃったんだろう…
…俺、早く…早く……帰らなきゃ……帰って……しなきゃ……
考え始めると混乱する。
「あ!気が付いた?痛みは?そうだ、看護師さんに知らせないと…!」
もの音と共に降ってきた突然の大声に頭が悲鳴をあげた。
「…ッて…」
「大丈夫か?郁弥!」
俺を見つめる心配そうな瞳の色。
「…香束です。意識が戻りました」
手早くナースコールをする声を聞いて俺は心なしか安堵していた。
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