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第190話

「…とにかく無事でよかったよ…」 あからさまに安堵の表情を俺に見せて、大きなバッグからタオルやコップ、ティッシュペーパーを手の届きそうな所に並べ始めた。 ナースコールの後、看護師と担当医がやって来て診察を受けた。 体は処置済みだからほぼ現状の確認のみ。 分かった事は…俺は車とぶつかって右足にはヒビが入り、左腕と肩、背中を強打、それから脳震盪。 頭は地面に酷くはぶつけなかったようだがタンコブが出来ていて枕に当たると地味に痛い。 こいつがとにかくいって〜んだよ。 寝返りするのも大変なのに、ようやく体の向きを変えたらタンコブに障るって…嫌んなっちゃう。 「頭打ってるから二〜三日は入院しなきゃなんないけど、ヒビが入った位で済んで良かった。あ、もちろん事故らないのが一番なんだけどさ」 俺に向かってほほ笑みかける優しい顔。 …けど… 「あ…ありがとう」 「いいんだ。この位させてくれよ」 反対に俺はどんどん不安な気持ちになっていった。 「…ん?どうした?」 そんな俺に気が付いたのかベッドの端に腰を掛け、その手が額に掛かる髪をかきあげる。 温かく優しい手のひら。 不意に顔が近づいて来て…唇が… 「とと!」 勢いよく病室の扉が開き、誰かがぴょんぴょんと跳ねながら息を切らして飛び込んできた。 「無事?痛い所ある?」 黒い大きな瞳。 「…薬が効いてるから…」 「良かった。父さんからのメッセージに気づくのおそくなっちゃって…」 …父さん…? 父さんって誰だ? いや、全然違和感なく接してるけど…この二人… …誰なんだ?

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