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第199話

二時間余りの上映時間はあっという間に過ぎ、俺達は映画館を出た。 「香束さん退屈したんじゃないです?」 「そんな事ないよ。ちょいちょいテレビアニメも見てたし」 「うわ、以外!どんなのです?」 「どんなのって…ん〜昔過ぎて思い出せない」 「そうなんですね」 アニメを見た覚えはあるのに、何を見たのか…どんなシチュエーションだったのか…それが分からない。 「そろそろ野原さんが気になってるお店に行こうか」 「あの…その事なんですけど…」 まん丸の大きな目が下から見上げている。 「ん?どうしたの?」 小さな子供のような仕草につい頭に手を置いてしまった。 「あの…家で食べていきませんか?」 「へっ?」 やべぇ…ビックリして声が裏返った。 「私、お料理大好きなんです。ぜひ香束さんに食べて欲しくて…」 「えっと…」 それじゃあお礼にならないじゃん! 「いや、でも…」 「私のワガママ、聞いてくれますか?」 うるうるした目で見上げないでくれ。 断れなくなるじゃん! 「ダメ…ですか?」 「あ、うん、分かった。ちょっとだけお邪魔するよ」 「わあ!ありがとうございます」 嬉しさからかぴょんぴょん跳ねる体の近くを人が通る。 「危ない!」 その小さな体を自分の方に引き寄せると、偶然指が髪を撫でた。 「あっ!」 びっくりしたのか俺に抱きつく彼女。 「ゴメン…!」 「あの…!人が多いので…こうしてても、いいですか?」 しがみつくようなその体勢。 「歩きにくいし…。そうだ…腕、掴む?」 「はい!」 ぱぁぁ、と弾けるような笑顔。 これじゃあまるで付き合ってるみたいだけど…まあいっか。 今日だけ、だし。 二人で駅に続く地下道に降りていった。

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