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第200話

「狭いんですけど、どうぞ」 「お邪魔します…」 広い室内に片付いたキッチン。 ロフトもあり決して狭くはない。 そして若い女性の一人暮らしなのに可愛い小物があまりないとてもシンプルな大人びた部屋。 俺はガラスのローテーブルの脇に座り、いそいそとエプロンを付ける彼女の後ろ姿を見ていた。 …何だろう、変な感じがして落ち着かない。 一人暮らしの女性の部屋だからなのか…それとも…。 「香束さん、食べられないものってありますか?」 「大丈夫、無いよ」 「分かりました!」 料理の仕上げに入ったのか、台所からいい匂いがする。 「もう出来ますからね!」 「ああ」 笑顔で振り向く横顔は世の男どもが夢見る新婚さん的なシチュエーションだった。 「美味かった、ご馳走様」 「お口に合いました?」 「うん、凄く美味しかった」 「良かったぁ!」 小さなローテーブルで向かい合って食事を取り、俺は残さず食べきった。 本当に美味かった。 何時でも嫁にいける、うん。 「じゃあ、そろそろ失礼するよ」 「え、まだいいじゃないですか」 「女性の部屋にいるにはもう遅いくらいだよ」 眉が八の字になり…これは拗ねているのか? イカン、彼女の為にも帰らなきゃ。 「え…っと、じゃあ俺はこれで…」 立ち上がろうとして、…だが俺よりも少しだけ早く彼女が動いた。 「待って!」 彼女が腕にしがみつく。 「ええ?」 顔が近づき視線が絡み、懇願するような表情。 「…帰らないで…」 ええ〜! 可愛らしかった雰囲気が、一瞬で大人の…色気に変わった。

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