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第208話

「これ…これ!」 全身がブルブルと震え、鳥肌がたった。 知ってる…俺、この写真見た事ある! 涼真が小さな子供に微笑んで、子供も嬉しそうな顔で微笑み返している。 「これ…俺が…撮った写真…」 アルバムを持つ手が自分の意思とは関係なくぎこちなく動く。 「俺が…俺が撮った…あぁ!」 …なのに…肝心な事が思い出せない。 「何で!何で!!知ってんだ!知ってんだよ!!」 思うように動かない指で捲るページの写真には見覚えがある。 …なのに…。 「…何で…知ってんのに、…覚えてんのに…思い出せないんだよ…」 言い様のない底知れぬ不安。 知っているのに分からない自分。 辛くて、苦しくて…アルバムを見ながら涙が溢れていた。 「…うぅ…ひっ…く……」 こんなに幸せそうな顔を撮ってたんだ、その時の俺は幸せに決まってる。 …でも、 全てを知っていて見守っている涼真や真咲は…俺の事を歯痒く思っているのではないか? 思い出せない不甲斐ない自分。 「涼真…ゴメン…」 「郁弥!」 「…あ…」 「何だ…ここに居たのか。納戸が空っぽになったままだからどうしたのかと思っ…ちょっと…泣いてる?」 紙袋を二つぶら下げて、心配そうに俺の顔を覗き込む涼真。 「…何でも、ないんだ。知ってるのに思い出せなくて…胸が苦しいんだ…」 「郁弥…」 アルバムを抱き締め、涼真に見られたまま止まらない涙を零し続けた。 「…あのさ…こんな時にどうかと思ったんだけど…」 ベーカリーのロゴの入った大きな紙袋を机に置き、もう一つの白地にピンク色のリボンの付いた紙袋の口を開けて涼真はそこから何かを取り出した。

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