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第211話
「…ん…ね…ッ…いく…ン…苦し…」
「知ってる…この感触、この匂い…」
涼真の唇に自分のそれを当て舐めたり吸ったり、ぴちゃぴちゃと音を立てていつまでも貪った。
「唇ばっかり…ふやけちゃうよ」
「じゃ、他の所も…」
「あッ…!」
掴んでいた腕を強く引っ張って、バランスを失った涼真は俺に向かって倒れてきた。
受け止めた勢いで正面から強く抱きしめる。
「…ぶない…」
「涼真…俺、涼真を抱いてる…」
「…郁弥…」
思い出せなかった過去が…少し見えた。
こうして涼真を抱き締めて…抱き締められて…それから…。
「…ねぇ、…もっと…したい…」
「…何を?」
何を…なんて、分かってんだろ!
「涼真を…二度と忘れないように、記憶に刻みたい」
「……」
背中に回した腕の薄い布地の下、涼真の本質に…触れたい。
「言うなよ…そんな風に」
「だって…」
「だってもへったくれもあるか」
そう言うと涼真は腕から抜け出し俺の顔面を引っぱたくように両手で挟んだ。
「そんなの…いちいち断んなくていいんだよ!」
「…え?」
それってどーゆー意味?
「郁弥の顔、面白くなってる。…まぁ、言葉通り…その…いいんだよ!郁弥なら!」
真っ赤になって俺の腹の上に馬乗りになっている涼真は…確実に俺より男前、だと思った。
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