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第222話
「よっ!」
会社まであと数十メートルという所で、俺の平穏は壊された。
朝っぱらから後ろから羽交い締めにされるって、普通じゃない。
「…中黒…」
「おはよ〜か・づ・か♡」
「うぇ…キモ…」
だけど俺だって負けてらんないぜ。
中黒を背負うような形で引きずって会社への足を進めた。
「うっわ!朝からパワフルぅ!」
「それまじキモイから離れろ」
「なあ、ちょっと顔貸して♡」
「…嫌だよ」
「始業まで三十分以上あるのに、香束くん冷た〜い」
一見戯れているように見えるけどな、こいつがこういったウザイ絡み方をする時はろくな事言わないんだ。
「急ぎの案件あんだよ。だから離せ」
「ちッ…仕方ねぇ…」
会社に着くタイミングで、渋々だがようやく中黒が俺から離れた。
まったく、いい大人が何してんだよ。
中黒は俺から離れるとヒョイと俺を追い抜き、そして振り返った。
「香束、人事通知見たか?」
「いや、見てない」
「…そっか。なら、いい」
最後にそう言って、奴は守衛に挨拶をして社内に入って行った。
「人事通知?こんな中途半端な時に?」
特に大きな組織変更をする時期じゃない。
同期の奴が移動するのか?
いや、仲のいい奴なら決まったら通知が出る前にメールで知らせてくるよな。
「知ってる誰かが大出世するとか?…いや〜それは無いか」
中黒の後を追うように俺も会社に入り、廊下を歩きながら考えを巡らせる。
「心当たりは…全く無い」
思いつく限り考え、至った結論。
「ま、いっか」
そんな事よりも俺にはもっと重要な事があるんだ。
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