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第223話
「お、香束!やっと来た」
「おはようございます。やっとじゃないです。まだ八時半、始業前です」
九時が始業なのにこの時間に出社して“ やっと ”とか言われる意味がわからない。
「俺より遅く来てんだから文句言うな」
「うわ、パワハラ…」
「ん…?何か言った?」
「何でも無いです!」
一連のやり取りを終えると、佐藤さんは満足そうな顔をして中野さんにドヤ顔を決めていた。
この茶番…中野さんは付き合ってくれなかったんですね…。
いや、やりたいならいいんだけどね?
「もうそろそろ来るはずなんだけど」
佐藤リーダーが壁時計と部屋の扉を交互に見ている。
「誰かお見えになるんですか?」
「そう!驚いた?」
「いえ…特には」
「…つまんね」
「…」
おい!社会人!このやり取り もういいだろ!
口には出さず心の中でそう突っ込んだ。
「ほら、もう来ますよ」
中野さんがそう言うと部屋の扉をが開き、スーツをビシッと着こなしたイケおじが、これまたキャリアバリバリウーマンっぽい美人を連れて入室した。
「お、揃ってるね。佐藤くん、今日から面倒見てあげて」
「山城美織です。皆様にご迷惑をお掛けするかもしれませんがご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします」
うっっわ!
流れる様な挨拶と優雅なお辞儀。
…そして…美人。
俺には涼真がいるから 全然気にならないけど、独身男性ならこぞってアタックするんじゃない?
「香束さん」
「ほぇ?」
脳内会話してる途中で急に名前を呼ばれ、俺は間の抜けた返事をしてしまった。
かっこ悪ぃ…。
「いろいろと教えて下さいますか?」
「は…はい…。私でよければ…」
「よろしくお願いいたします」
そう言って頭を下げる直前、彼女の口角が歪に上がったように見えたのは気のせいだろうか…。
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