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第229話

「…ふぅ…ててて…」 仕事に集中していれぱ少しの間は痛みを忘れられるのだが熱中すると姿勢が変わり体に負担がかかって痛みが出てくる。 集中が途切れるなぁ…。 いや、集中出来ない理由は他にもあって…とにかく山城さんが気になるのだ。 「香束、見蕩れてんじゃないよ」 「あ、え…すみません…」 佐藤さんに軽くお叱りを受け、これではイカンと再び目の前の資料に無理に視線を落とした。 彼女は俺の方なんかイチミリも気にしてない風で仕事に勤しんでいる。 …なに考えてんのか全然分かんねぇし…。 雑念を振り払えぬまま、俺はとにかく終業時間まで仕事を進めた。 「とと、大丈夫?随分と痛そうだよ」 心配そうな顔で真咲が俺にホカホカと湯気の立つ茶碗を手渡した。 家に帰りスーツは脱いだものの、ワイシャツは地味に面倒なのでそのままでリビングで夕食を取る。 「僕が着替えを手伝うよ?」 …もはや介護? そう思うと気持ちはしょんぼりしてしまう。 会社での仕事は何とかを終わらせ…と言っても急ぎの物は中野さんが俺の代わりに処理する事になっているので、随分と気を使ってもらって申し訳ないと思っている。 「痛いよ〜真咲。そうだ、チュウしてくれたら治っちゃうかも」 「うわ…さすがにこの歳じゃやんないかな」 「郁弥…引く…」 「…そうだよな」 もう三つや四つのおチビちゃんじゃないもんな。 そのうち真咲にも好きな人が出来て、いつかこの家から出ていくんだ…。 「とと、泣いてるの?」 目の前の優しい瞳が揺れる。 「大丈夫、ちょっと痛かっただけ」 …胸じゃない、肋骨が痛むんだ…と自分に言い聞かせた。

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