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第231話

「真咲は…好きな人とか…いる?」 「え…?あの…うん…」 一緒に風呂に入って裸の付き合いしてんだからこれくらい聞いてもいいだろうか。 「そっか…。学校の子?」 「…えっと…その…」 目を逸らして湯船で温まっているせいか、それとも他にも原因があるのか、真咲の顔は赤く染まっていった。 「あ!言いにくいよ、な。ゴメンゴメン」 こんなの職場ならハラスメントだ。 相手が真咲でも答えにくい事を立場を利用して聞き出すなんて…。 口には出さないが心の中で反省しておいた。 「とと!あの…んとね…」 揺れる水面に視線を落として、真咲が口篭りながら俺に何かを伝えようとしている。 「真咲?」 意を決したように一瞬だけ俺を見て…すぐにまた伏し目がちになってしまったが…続きを話してくれた。 「僕、好きな人が…いるんだ」 「…そっか!良かったな」 「でもね…僕が一方的に好きなだけだから…」 うーん…片思い? 「だから…まだ父さんにはナイショにして」 「うん、分かった。男同士の秘密って奴だ」 「とと、ありがと!」 涼真も男だが…今そこはどうでもいい。 にっこりと笑った真咲は小さな頃と同じ笑顔に見えたけど…もう半分大人になってしまったんだと確信して…何だか少しだけ寂しくなった。 「上手くいったら紹介してくれよ」 「…うん…多分…ね。僕もう出るけど ととは?」 「もう少しゆっくりするよ」 「用があったら呼んでね」 そう言って、真咲は恥ずかしいんだかそそくさと出て行った。 真咲に好きな人が出来て、この家を出て行ったら涼真と二人きり…か。 嬉しいような、寂しいような…不思議な気持ち。

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