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第233話
「あ〜あ、会いたくもない奴に会っちゃったな」
持参した運搬用トートバッグにロッカーの中身をポイポイと放り込んで俺は扉をガチャンと閉めた。
そして戻る道すがらトートの中を掻き回し俺宛のモノを探す。
「ん、コレか?あった」
大きめの封筒はやや厚みがあって冊子か何かが入っているようだ。
「いちいち送ってくれなくてもいいのに」
袋に印刷された社名の隣に、手書きで送り主の名前が記されていた。
丁寧に書かれた文字を親指で撫でた。
「香束 戻りました。佐藤さんにはお手紙がいっぱい来てましたよ」
トートごと佐藤さんに押し付けて俺はさっさと席に着きパソコンの画面を開いた。
「ん?メール?」
いつもの見慣れた業務連絡とは違う外部からのメールが一通。
「メールまで寄越したのかよ、マメだなアイツ」
暫く疎遠になっていたのを感じさせない文章は俺の凝り固まっていた心を少しだけ柔くしてくれた。
「仕方ない、志摩に会いに行くか」
封筒をカバンに突っ込んでから俺は友人からのメールに返信をした。
「香束、明後日の資料出来てる?」
「あ、ハイ。五分下さい。こっちやっつけてから送ります!」
「頼む」
おおっと!急げ急げ!
仕事とは全く関係ない訳じゃないけど、私的なメールだからな。
「送信!えーっと、昨日作った資料は……」
カタカタとキーボードに指を踊らせていつものように仕事に向き合う。
大丈夫。
胸につっかえていたものはどこかに行ってしまったから。
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