「……たんだろ？」 「…それが何？」 「関わらないでくれ」 「嫌よ！」 あぁ、ヤベェ…。 軽く修羅場ってる風。 「…ようやく帰って来れたのよ」 「今更…手放せる訳、無いだろ…」 別れ話か…撚りを戻す相談か…。 二人は三階辺りで言い合っていた。 赤い花柄のスカートが女の子の体の動きに合わせて花弁のように広がる。 「仕方ない、ここからエレベーター使うか」 見たくもない痴話喧嘩(決めつけ)は見ないに限る。 俺は四階のエレベーターホールに向かおうと階下の二人から瞬目を離した。 「俺には必要なんだ！」 …あれ？この声…涼真…？ 気にはなったものの、階段からホールに方向転換した体は勢いもあって二人が誰なのか確信のとれないまま四階のエレベーターホールに出てしまった。 「あの声…涼真だろ…何で？」 今まで感じた事の無い小さな不安の種が胸の奥、深い所に一粒落ちた。 「ただいま〜」 「お帰りなさい、父さん」 「…お帰り、涼真」 ちょうど夕飯が出来上がった頃、涼真が帰宅した。 「うわ、オムライス！美味そう！」 物言いは明るいが表情がやや暗い…ように見えた。 「ケチャップで♡描いてよ、真咲」 「ダサくない？」―― 「パパ大好き♡でもいいよ」 「うっわ、オヤジっぽい」 酷いな…、笑顔でそう呟いて…少し疲れた様子の背中を丸めて…涼真はキッチンを出て行った。