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第253話
「ごちそうさま〜、美味しかったぁ!」
ポンポンと両手でお腹を叩く仕草をして、真咲は空になった食器を流しに運ぶ。
「眠くなっちゃったから僕部屋で休んでるね」
「風呂の用意が出来たら声掛けるから」
「ありがと」
ふぁ〜、と生あくびを噛みながら真咲は扉を開けて出て行った。
部屋には俺と涼真の二人きりだが、涼真はまだ箸を持っている。
…食事中…では、ない。
その証拠に箸は宙を掴んでいる。
「涼真、もういいんじゃないか?」
「あ…うん…。ごちそうさま」
心ここに在らず的に空返事を寄越し、涼真はまだ料理の残る皿を持ち流しへと運んで行った。
…おかしい。
今日は特に何事もなく…あ、エロい事はしたけど…忙しいとか、誰か来たとか…そんな事は一つも無かった。
「…ごちそうさま」
俺も箸を置き、食器類を持って流しに下ろす。
「涼真…?」
水道のレバーを握ったままどこか焦点の合わない目。
「俺、片付けるよ?」
肩に手を置きそう告げると涼真の目が俺を捉えた。
「…ん?…あ、ありがと…」
「なあ、涼真。どうかした?」
「あ…ううん。何でもない」
言いかけた様に開いても、また閉じる唇。
「食べ過ぎた…のかな。部屋で休んでくる」
「うん」
頭を少し右側に傾けて、涼真もリビングを出て行った。
「急にどうしたんだ…?」
スポンジに洗剤を垂らしてグシュグシュと泡立てながら、俺は昔の事を思い出そうとしていた。
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