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第261話
俺は激しく打つ鼓動も鼻息もまだ治まらず、とにかく溢れ出す怒りに流されていた。
毛穴から蒸気が吹き出しシャツが汗で濡れている。
中黒は椅子を引いてそんな俺の肩を押し下げ無理に座らせ、そして自分は俺の目の前にドカッと腰を下ろして口を開いた。
「まず確認したいんだけどさ、それは香束のものなの?」
真咲はモノなんかじゃ、ない。
「……俺のものって訳じゃ…でも…」
「じゃあさ、それを香束一人で育てたの?」
「…いや…違う…けど…」
俺だけじゃない、涼真と二人で大切に大切に育ててきたんだ!
「そうなん?」
「…ああ」
そうだよ、俺は他人だ。
真咲にとって俺はただの他人。
父親と仲がいいってだけの。
「…ん?どったの?急にシュンとしちゃった?」
あれほど逆上していたのに急に我に返って…というか中黒の言葉で冷静になってしまった。
「でさ、その大切な何かをかっ攫おうとしてる奴はさ、わざわざ攫いますよって言ってきたのか?」
「…まあ…」
「んー…」
腕を組み目を閉じて何か考えている風な中黒。
「とにかくさ、相手が正面から来てんだからさ、一緒に育ててる奴とよく相談すれば?」
「……」
「怒り狂ってたら見えるもんも見えなくなるし、何より足元掬われるぜ?」
「……」
…確かに。
山城さんは俺と涼真の関係を知ってると言わんばかりの言葉も匂わせた。
中黒の言った通り、涼真とよく話す必要があるのは事実。
「悪かった。ちょっと頭が冷えた」
「違うだろ〜言葉のチョイス〜」
片手を額に当て残念そうな顔、すんな!
「…あ、ありがと…」
「そうそう、それよ」
中黒は満足そうに微笑んだ。
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