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第264話

「…ただいま。いい匂いだな」 玄関扉を閉めると家の中から美味しそうな匂いが漂ってきて、腹が減ったのを思い出した。 「おかえりなさい!とと!今日ね、僕が夕飯作ったんだよ!」 エプロンを着けた真咲がキッチンから飛び出してきて玄関でもたついていた俺に抱きついた。 青地に白いストライプの柄で、これは俺が真咲に作ってやったものだ。 「うわ!マジ?」 「早く食べようよ!」 「直ぐに着替えるから先に食べてて」 「分かった!」 頭を撫でるとニコッと笑って真咲はキッチンに戻って行った。 「そっか、夕飯作ってくれたのか」 今日は酷く心が荒んで怒りと苛立ちで疲れてしまっていた。 ほんわかと暖かくなる胸。 家にあがり自室でスーツを脱ぎ部屋着に着替えると、目の奥がじわっとしてポタポタっと水が落ちた。 「あれ?」 反射的に腕で顔を擦った。 スエットの袖口が濡れて色が変わっていた。 「何だよ、カッコ悪ぃ」 「郁弥、入るよ」 「わ、待って…」 「…え?どうした…?」 顔…見られた。 「郁弥、怪我でもした?泣いてんじゃん!」 「してないし、泣いてない」 …泣いてない、は嘘だが涼真を心配させたくない。 「目は赤いし、濡れてる」 俺に近づく手。 「ほら、泣かないで」 涼真の親指が俺の目の下を目尻に向かって撫でていく。 「真咲が…いい子過ぎて…」 そう言うと、涼真の目が一瞬まん丸くなり、それから笑顔が弾けた。 「あたりまえだろ、俺と郁弥が育てたんだからさ」

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