「お休みなさい」 少し大きめの水色のパジャマを着ていつものように就寝の挨拶をしてから真咲はリビングを出ていった。 静かな部屋に残されたのは俺と涼真。 「明日も仕事だけど、少し飲むか？」 平日はあまり飲まないのに、きっと俺に気を使って言ってくれている。 冷蔵庫を開け、やや体をかがめて取り出したのは俺と涼真が気に入っているメーカーの缶ビール。 「じゃ、少しだけ」 一本のビールを二つのグラスに分けて注ぎ、片方を俺に渡して涼真は目で問いかけてきた。 「えーっと…何があったのかっていうと…。涼真こそ、何かあったんじゃないのか？」 「……」 「例えば…真咲をくれ、とか」 涼真の眉間に深い皺が寄った。 「…やっぱり郁弥の方にも…ゴメン…」 「俺はいいんだ。ねぇ、何があった？」 「…真咲をひきとらせてくれって」 「やっぱり…」 あの日、俺が階段で見かけた二人は涼真と山城さんに間違いない。 「何で赤の他人がそんな事言ってくんだよ」 「…あの人は大崎先生の奥さんの…妹なんだ」 「…は？関係ねぇじゃん。全くの他人だ」 真咲と何の血の繋がりも無い赤の他人が涼真とオレが育てている真咲をくれだなんて！ 「真咲が生まれた時から…なんだ」 そんな前から…？ 「はぁ？それこそ何で…」 「大崎先生には子供がいなかったから」 「それとこれとは無関係だろ？」 「まあ、そうなんだけど…ね」 人にはいろいろと事情があるんだよ、と呟いて涼真は悲しそうな顔をしてみせた。