「詳しくは分からないんだけど…ね…」 ソファーに体を預けて空になったグラスを弄ぶようにくるっと回し、涼真は口を閉じた。 最愛の子供を亡くす。 それがどんな事なのか、絶対に考えたくない耐え難い事なのは想像に容易い。 俺だってもしもの事を考えると胸が詰まり、息さえ出来なくなる。 「だからって…」 …それは理由になるのか？ 替りに他人の子供を欲しがる理由に…。 「俺は分からないね。分かろうって微塵も思わないし」 グラスをテーブルに叩きつけたいが、もう休んでいる真咲を起こしてしまうかも、と考えるとそんな事したくない。 「…きっと心の整理がつかないんだ…」 涼真は苦しげに言葉を呟く。 そうだろうけど…でも…。 「…でも、違う…だろ？」 「…ああ、そうだな」 寂しそうな顔をして、涼真が目を伏せた。 常夜灯の灯りをぼんやりと見ながら、涼真の顔を思い浮かべた。 「…亡くしたら…なんて考えたくもない…」 きっと悲しすぎて生きていけない。 だからといって死ぬ勇気も、ない。 残された者として生きるしかないのは分かっているが… …考えたくない… …いや、もうそれ以上は考えられなかった。 考えただけで全身が震えて首を絞められたように呼吸が出来なくなる。 胸が苦しくなるのだ。 だから頭が、身体が、全身で拒絶する。 「…そんな経験…したのか…」 俺は腹の中に溜まった澱んだモノを吐き出すように、ふう…と深く息を吐いた。