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第270話
白地に赤、青、紫の花が咲いているスカートが佐藤リーダーの前でふんわりと揺れた。
「こちらの確認お願い致します」
「昼までにはチェック出来るから」
「わかりました」
何のことは無いありふれた会話を聞きながら、俺はチラッと佐藤さんと山城さんを盗み見た。
うーん…怖いくらいにいつもと同じ。
「香束、今メール送った。資料の訂正があんだけど…最新版が出たらしいからそっちに差し替えて」
「はい、了解です」
中野さんからメールボックスに送られてきた資料は…少し数字が違っているが、グラフやリストの大きさは同じくらいで修正は容易い。
ざっと中身を確認して、それから新しい資料に置き換えて…んん?
山城さんから…メールの着信?
…またかよ…。
俺に何を言っても無駄だからな。
パソコンを見つめる横顔を軽く睨んで、そのメールを開いた。
「お!今日は普通に食ってんな!」
「まあね」
「それそれ!茄子のはさみ揚げ美味いよね〜」
会いたくないタイミングで必ず目の前に参上する男、中黒。
しれっと目の前の席に腰を掛け、味噌汁をずずっと啜った。
「俺以外に飯食う奴いないの?」
「はぁ?わざわざ来てやってんだろが」
「頼んでないし」
「香束は冷たいな…俺達同期だろ?」
キメ顔で生姜焼きの肉を箸で持ち上げても、落ちる女の子はいないぞ!
そして俺は断じて冷たくはない、お前がウザイんだ。
「同期のよしみで情報持ってきてやったぜ」
「情報?ボーナスか?」
「今年のボーナスは前年比…って、違うわ!アレだよ。きっと香束が今知りたいコト♡」
俺の知りたい事?
何でそんなの知ってんだよ。
おかしくないか、中黒…?
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