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第275話
「佐藤さん、メールで送ったんで確認お願いします」
「お、早いね。ありがと」
終業を知らせるチャイムからおよそ十五分後、佐藤リーダーから振られた仕事を終わらせた俺は帰り支度を早々に済ませた。
山城さん…美織は既に退席していて、もう待ち合わせの場所にいるのだろう。
「お疲れ様です」
「お先に」
一階に降りてくると顔見知りが帰り支度をした俺に声を掛けてきた。
退勤する人達が、皆出口へと向かっている。
俺はその手前を左へ曲がり一人会議室へと向かう。
美織との待ち合わせの場所へ。
「はーっ…」
ドアの前で立ち止まり深呼吸して気持ちを落ち着かせてからドアノブに手を掛けた。
「…郁弥を巻き込むな!」
ドア向こうから荒らげた声が聞こえた。
「涼真…?」
聞き慣れた声のはずなのにいつもとは違う怒気が含まれ、俺は恐る恐るドアを開けた。
広い会議室の向こう側とこちら側に、美織と涼真が対峙していた。
「私の方が相応しいじゃない!」
「相応しいって何だよ!」
「環境よ!男二人が育ててるっていうのが普通じゃないのよ!」
…まあ、一般的には両親に育てられるのがいいんだろうけど…それが全てか?
「大きなお世話だ!俺と郁弥二人で真咲を大切に育ててるんだ!」
普段は穏やかな涼真だが、今日は未だかつて無い程怒りを顕にしている。
だが美織も負けていない。
赤い口が弧を描く。
「私…知ってるのよ?あの子はあなたの本当の子供じゃないって」
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