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第276話
「だから?それが何なんだ?」
涼真だって負けてない。
「それが…?それなら私だっていいじゃない!私が育てたって!」
「お前が真咲に何をしてやれるっていうんだ?俺も郁弥もどんな事だって真咲にしてやる。なによりも真咲を愛してる」
「愛してる…?あなたが愛してるのは香束でしょ?知らないとでも思ってた?」
「……」
ああ、これだ。
中黒が言ってた事は。
俺と、涼真のコト…つまりはこの“ 秘密の関係 ”。
これを世間に…いや、外から真咲に知られるのが怖いんだ。
何にも知らない悪意ある…例え悪意が無くとも…よく知りもしない人達から誹謗中傷、同情、非難…心無い言葉の刃に真咲が傷付けられてしまうのが。
ゴメン、涼真。
俺が、お前を好きで。
俺が無理やりに同居を勧めたせいで…。
だから俺の気持ちに応えてくれた涼真を…真咲まで傷付けるような結果に…本当に、ごめんなさい。
扉のすぐ側で美織の言葉に動揺して立ち尽くす俺の三歩前で、涼真は怒りに肩を上げていた。
だが、大きく息を吐いてそれはストンと下がった。
「…昔から変わらないな。美織」
声色がいつもの涼真のそれに戻った。
「…人の物を欲しがる癖」
「……!」
「咲百合が俺と付き合ってるって勘違いして俺を誘惑してきたり…」
「してない!」
「大崎先生の母親に真咲の事言ったのもお前だろ?」
「だから…違う…!」
「今度は同僚が妻子亡くしたからって真咲連れてそこに収まろうって考えてんじゃないか?」
「…どうして…それ…」
一言呟いた途端、手で口を覆ったが一度口から吐いた言葉は戻らない。
激高していたのが嘘のように、美織の顔色が悪くなっていった。
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