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第282話

「…で、どうする?東藤、香束」 隣に座る涼真は目を閉じて腕を組み、見たことも無いような険しい顔をしている。 昨日のアレから丸一日過ぎ、俺は涼真の隣にちんまりと座っていた。 「…これ以上生活の邪魔をしなければ、それでいい」 …それは全てを許す、という事だろうか。 「…そうか。香束は?」 「俺は…。俺も、かな」 「独創性のない奴め…」 はぁ?うるさいわ。 「…とにかく、平穏な生活がしたいだけなんだ」 波風立たぬ、穏やかな日々。 「分かった。そのように伝えておく」 中黒は会議室のテーブルの上においてあったボイスレコーダーを手に取り操作した。 その顔をよく見れば中黒の目の下にはクマが存在を主張している。 きっとあちらこちらの関係各所に連絡を取ったり、報告書を作製したりと忙しかったのだろう。 不意に中黒と目が合って再びこちらに向き合った。 「…俺は…いいと思う…」 突然中黒が言った。 「何がだよ」 今回の出来事のどこにいい所があったよ? 「…その…結婚…?すればいいと思う」 「…えッ?」 今このタイミングで言う? 「法を犯してるわけではないし、それで誰かが不利益を被ることも無い。本人達が気の済むようにすればいい」 その言い方…すんなりと、ありがとう…とは言えなくないか? 「…味方が増えたと、思うことにするよ。ありがとう」 涼真はさらりとそう言い、立ち上がった。 「もう、帰っていい?」 「ああ、構わない。こんな時間まですまなかった」 うわ、もう八時じゃん。 早く涼真と家に帰って真咲に会いたい。 「じゃあ、俺ら帰るよ。後はよろしく、中黒」 「任せておけ」 荷物を持って、俺と涼真は肩を並べて家路についた。

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