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第283話
夜の街に車のライトが滲んで消える。
涼真と二人で大通りを駅に向かって静かに歩いていた。
本当は聞きたい事も言いたい事もあったけれど、涼真の視線がどこか遠くを見ているようで、敢えて俺は黙ってその隣にいた。
駅構内には人がそれなりにいて、まだラッシュが終わっていないのだと思った。
そして騒音が大きくなり滑るように入線する電車。
「涼真、こっち」
ホームに降りる人と電車に乗り込む人とが交わり涼真が人波に流されかけて、俺は涼真の腕を引っ張った。
「ありがと、郁弥」
「ああ」
その、たった一言が…嬉しい。
並んで吊革に掴まりお互いに車窓を見ているが俺は見慣れた景色なんて見るはずもなく…窓に映る涼真を見ていた。
カタンカタンと揺れる振動に合わせるように俺の鼓動も脈打って、スーツ越しに触れる肩が熱くなる気がした。
『俺と結婚しよう』
いつかは言おうと思っていたけれど、あのタイミングで言い出すなんて…どうかしていた。
そして涼真から明確な返事は貰ってない…。
クソッ!いちいち決まんねぇよな、俺。
中黒が止めに入らなかったらキスしてたな…
「会社で…」
「会社がどうかした?」
やべ!口に出てた!
「いやぁ、明日も会社だな、ってさ」
「でも、すぐ休みになるよ」
「ああ、そうだな」
土曜日は何をしよう?
きっと真咲は昼まで学校だろうから、涼真と二人で洗濯、掃除、買い物でもして過ごそうか。
それから聞きそびれている返事を催促してみようか…。
…いい返事、待ってる。
窓に映る涼真にそっと語りかけた。
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