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第284話

「姉ちゃんと?今日?」 「そう」 再び睡魔が舞い降りたように、開ききらない瞼が一層重くなる。 「決定?」 「もちろん」 冗談ではない事も分かっている。 だが、医者として忙しい毎日を送っている姉に平日の夜に時間を割いてもらうのには気が引けるのだった。 「今日じゃなくても…」 「こういった事はね、早い方がいいんだ」 涼真はこの間の俺の『結婚』発言を受けて、ひとまず姉の優羽に相談するのが筋だと言った。 言ってる意味は分かる。 だけど真面目だ…真面目すぎないか? 一応食い下がってみる。 「明日は土曜日なんだからさ、明日でもいいんじゃ…」 「郁弥」 「ハイ…」 あ…これはもう俺の意見は聞かないやつ。 観念して今日の夜は久しぶりに優羽の所に行くか。 同じマンションに住んでいても職種が違えば生活の時間帯も違うから顔を合わせる事はほとんど無くて、日頃いろいろと世話を焼いて貰っている立場としては頭が上がらない。 手土産は必須だな…。 「真咲、そろそろ出ないと」 「分かった!」 涼真が玄関まで真咲を見送っている間にさっさと食器類を流しに運びスポンジを手に取る。 まあ、優羽はきっと反対しない。 だが夫の隆さんはどうだろう? 俺達に嫌悪感を持ったりしないだろうか。 こんな弟がいる事で、優羽の立場が悪くなったりしないだろうか。 挙げればキリがない不安の種が一斉にふつふつと出始めた。

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