291 / 322

第291話

「郁弥、…見過ぎ」 「あ…」 イカン。 ついついガン見してしまった。 湯気の向こう側、何事も無かったようにお湯を被って洗い出す涼真。 じーっと見るのもアレだから、天井を見上げる風に装って目の端にこっそりと涼真を捉える。 顔を洗ってそれから…首、肩、腕…と、白い体に泡を纏って…んんん…本音を言えば俺が洗いたい! チラチラ見る俺を知ってか知らずか…涼真は手早く済ませて一緒の湯船に入ってきた。 「ふーーーっ…気持ちいー……」 そうだよな…俺の姉ちゃん家に行ったんだ、俺より涼真の方が緊張したよな。 向かい合ってお湯に浸かる涼真はようやく緊張が解けたのだろう、湯船の縁に腕を掛けて目を閉じていた。 「え…と、その…」 口篭っていると涼真はニコッと微笑んで、逆に俺に話しかけてきた。 「…俺さ、嬉しい」 なんの前置きもなく、涼真の口から零れた言葉。 「だってさ、前にも言ったかもしれないけど…好きな人と一緒に暮らせてさ、子供もいてさ、優羽さん達も暖かく見守ってくれてる…」 兄弟のいない涼真。 両親は離婚し、真咲との事で母親とも上手くいっていないと聞いた。 「いやいや、俺の方がずっと嬉しいんだかんな!」 「は?」 「ずっと好きで…もうダメだって絶望して…、でも涼真と暮らせるようになって、真咲も自分の子どもみたいな気持ちで育てられてさ…」 「郁弥…」 涼真の嬉しげな瞳。 「それから…甘やかして一緒にお風呂にも入ってくれる」 「…いーくーやー…」 …あれ…?反応が冷ややか。 温かなお湯の温度が微妙に下がったような気がした…。

ともだちにシェアしよう!