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第291話
「郁弥、…見過ぎ」
「あ…」
イカン。
ついついガン見してしまった。
湯気の向こう側、何事も無かったようにお湯を被って洗い出す涼真。
じーっと見るのもアレだから、天井を見上げる風に装って目の端にこっそりと涼真を捉える。
顔を洗ってそれから…首、肩、腕…と、白い体に泡を纏って…んんん…本音を言えば俺が洗いたい!
チラチラ見る俺を知ってか知らずか…涼真は手早く済ませて一緒の湯船に入ってきた。
「ふーーーっ…気持ちいー……」
そうだよな…俺の姉ちゃん家に行ったんだ、俺より涼真の方が緊張したよな。
向かい合ってお湯に浸かる涼真はようやく緊張が解けたのだろう、湯船の縁に腕を掛けて目を閉じていた。
「え…と、その…」
口篭っていると涼真はニコッと微笑んで、逆に俺に話しかけてきた。
「…俺さ、嬉しい」
なんの前置きもなく、涼真の口から零れた言葉。
「だってさ、前にも言ったかもしれないけど…好きな人と一緒に暮らせてさ、子供もいてさ、優羽さん達も暖かく見守ってくれてる…」
兄弟のいない涼真。
両親は離婚し、真咲との事で母親とも上手くいっていないと聞いた。
「いやいや、俺の方がずっと嬉しいんだかんな!」
「は?」
「ずっと好きで…もうダメだって絶望して…、でも涼真と暮らせるようになって、真咲も自分の子どもみたいな気持ちで育てられてさ…」
「郁弥…」
涼真の嬉しげな瞳。
「それから…甘やかして一緒にお風呂にも入ってくれる」
「…いーくーやー…」
…あれ…?反応が冷ややか。
温かなお湯の温度が微妙に下がったような気がした…。
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