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第299話
「わたしが死んだ後でこの手紙を読む郁弥へ…か」
涼真はボソッと呟いて少し色の褪せた便箋に目を落とす。
さっきまでの色香はすっかりと消えて、元伴侶の手紙と向き合う夫の体だ。
俺は隣でその様子を静かに見守った。
この手紙が俺と涼真を再び結びつけてくれた。
届かなかったり、そもそも咲百合が俺に手紙を残してくれなかったら…こんな風に涼真と暮らしている事はなかっただろう。
カサっと紙が擦れページを捲る音がした。
表情は硬いが黙って読み進める涼真。
する事も無い俺はシーツの上に置いてあった封筒を拾い、まじまじと見てみると宛名は見慣れた文字が並んでいた。
「この字…優羽の字に似てる…」
優羽が俺に送って寄越したのだろうか。
でも、そうだとすると何だか納得がいくような気がした。
「咲百合と優羽は…仲が良かったよな」
俺と涼真が兄弟みたいに育ったように、咲百合と優羽は姉妹のような関係だったのかも。
そんな事を考えていたらため息を吐いたような涼真の息遣いが聞こえた。
「…最後のお願い、か…」
涼真は手紙を読み終わり元あったように丁寧に便箋を畳んだ。
「…見透かされ過ぎてる…」
「…そうだな。でもそのお陰で俺はこうしていられる」
「…うん」
涼真は俺の手から封筒を取り上げて丁寧に中に戻し、それを元あったアルバムに挟んだ。
「ありがとう」
「…いいんだ」
涼真はコテンと倒した頭を俺の肩に預け、再び小さなため息を落とした。
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