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第304話

よく晴れているせいか遠くまでよく見える。 とはいえ、見えるのは都心のビルの群れ。 俺はベランダの柵に片肘を付いて、はぁ…と息を吐き出した。 「あ〜郁弥サボってる」 「え?違うって、少し休憩してるだけ」 「それをサボってるって言うんだよ」 言いつつも指摘した涼真が俺も、と言ってぴったりと隣に並んだ。 「駅五つ下った所だからウチより田舎な風景かと思ったのに、何だよ高層かよ」 「大学斡旋のマンションだからかな」 どこに住むのか気がかりであったのだが、学校が一括で借り上げているマンションと聞いて少しほっとした。 家賃は相場よりも低めだし歩いて通学出来るのも、いい。 「十階だと眺めがいいな」 「そう?俺はもっと地面の近くがいいよ」 涼真はさりげなく俺の背中に腕を回している。 高い所が得意でない涼真。 緊張しているのか興奮しているのか、今はあまり感じていないようだ。 「父さん、とと、何見てるの?」 「景色いいな、ここ」 「そうでしょ?父さんと ととが住んでるマンション見えるかな?」 柵から身を乗り出し気味に景色を眺める真咲に涼真の顔色は白くなる。 「真咲、危ないから!」 「大丈夫だよ、涼真。小さい子じゃないし」 「でも…」 涼真を腕で制止して二人で真咲を見つめる。 ほら、ぐずって抱っこしていた真咲はこんなに大きくなったんだ… 俺達の元から巣立ち出来るまでに。

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