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第305話
「疲れた…」
「ああ、そうだな」
帰り道、涼真と二人でとぼとぼ歩く夕暮れ。
真咲は物を欲しがらない子だったから引越しの荷物は本当に少なくて、レンタカーの軽トラックで一往復しただけで荷物の移動は済んでしまった。
後は家電や家具の到着を待って部屋に配置して俺達の仕事は終わり。
三人で少し遅めの昼食を近くのファミレスで食べて日が傾くまで真咲が片付けるのを涼真と眺めた。
…ああ、本当に真咲は俺達の元から出ていくんだ。
帰る道すがら三人が二人になっただけなのに寂しくて仕方ない。
だがそんな俺とは違って隣を歩く涼真はいつもと変わらないように見えた。
ふと、足が止まる。
「…郁弥?」
立ち止まってしまった俺に気づいて振り返る涼真。
「あ…悪い…ちょっとぼやっとして…」
「そっか。もう少しで家だし、ゆっくり帰ろう」
「…うん」
振り向いた涼真の顔に西日が当たって、ああ…涼真はこんな時でも綺麗なんだな…何て思ってしまったけれど、そんな涼真とは対照的に俺は一筋の涙で頬を濡らしていた。
「真咲、夕飯食べたかなぁ」
「きっと食べてるよ」
「そっか」
割り箸が宙を掴むが弁当の中身はまだ半分ほど残っている。
気落ちする俺に気を使って、涼真が夕飯用に弁当を買ってきてくれた。
「郁弥、今日はありがとう。」
「いいんだ、そんなの」
「俺一人だったらきっと耐えられなかった」
「涼真…?」
「……」
歪む涼真の表情。
…ああ、涼真も辛かったんだ。
それが分かった途端に俺の涙腺は緩み、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
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