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第24話

「はぁー、良いお湯だった、温泉サイコーだな、家に欲しいわ」 「ねぇ、侑史くん」 「あ、なに?」 「なんで部屋にお風呂ついてるのにそっち入らないの?部屋のお風呂だとふたりきりなのにさ」 「お前、神聖な温泉を目の前にしてやらしいこと考えるのヤメロ!」 振り返って、柴田が眉間に皺を寄せる。別にそこまでは言ってないのにと思いながら、考えていたことはまさにそれだったので、逢坂は両手を上げて服従のポーズをする。お風呂で温まった体で部屋に帰ると、丁度仲居さんが夕食を運んで来てくれているところだった。見る間にテーブルの上に豪華な夕食が用意されていく。流石、高級旅館だと逢坂はそれを正座して眺めていたが、柴田はのぼせたと言って窓際の椅子に座ったままだった。全て運び終わったらしく、仲居さんが仰々しく頭を下げて退室する。逢坂はまた戸口まで出て行って、彼女たちが視界から消えるまで眺めていた。振り返ると、部屋の中に二人ぶんの夕食が湯気を上げている。 「侑史くん、大丈夫?ご飯、用意終わったよ」 「あー・・・うん」 先程まで元気だった柴田だったが、本当にのぼせたのかローテンションで返事をすると、ずるずると足を引きずるようにして夕食が準備されたテーブルの前に座った。 「すごいねー・・・流石、高級旅館・・・豪華」 「・・・あー・・・うん」 「ちょっと、侑史くんほんとに大丈夫?」 「いや・・・うん、しずか、俺、ご飯要らない」 「は!?」 「疲れたし、もう寝るわ」 「ちょっと、侑史くん!」 立ち上がろうとする柴田の浴衣を掴んで、逢坂は若干青くなりながら呼び止めた。鬱陶しそうに柴田が振り返るのと目が合う。 「要らない・・・?何にも食べないの?」 「うん・・・だって、別にお腹減ってないし」 「ちょっと座って、折角来たんだから食べようよ!」 「えー・・・」 渋々といった表情で、柴田は仕方なくテーブルの前にもう一度座った。何となく浮かない表情をしていると思ったが、これが原因だったのか。逢坂は家にいる時の柴田しか知らないし、一度外で焼き肉を食べた時は、普通に食べていた記憶しか残っていない。 「ホラ、侑史くん刺身おいしそうだよ、海近いから新鮮だし」 「は、俺生魚食えねぇし」 「そうなの?え、と、そしたらこれは?天ぷら」 「油もん無理」 「お味噌汁は?」 「変な貝入ってる、無理」 「ごはん・・・」 「混ぜご飯とか何入ってるかわかんねぇし食べられない、緑の何?気持ちわるっ、無理」 「・・・ぜんまいだよ・・・侑史くん」 「ぜんまいって何?食べらんない、寝るわ」 結局器を全部見て、あれこれ文句をつけるだけつけると、柴田は首を振って立ち上がった。隣の部屋の襖を開けて仲居さんが敷いてくれた布団の上に転がった。 「ちょっと待ってよ、折角来たのに、何にも食べないの?」 「うん、しずか、いるんなら食べて良いぞ」 「要らないよ・・・俺の分あるし・・・」 「ならもう、置いとけ」 「そんな・・・。侑史くん家じゃもうちょっと食べるじゃん、ほんとは食べられるんでしょ」 「お前が作ったもんならなー」 遠くから柴田が言い、ひとりで笑っている。嬉しいような気もするが、若干言い訳に使われている気もして、何となく手放しに喜べないと逢坂は思った。仕方なく逢坂はひとりで用意された豪華な夕食を食べはじめた。どうせ食べられないのは分かっていたのだから、宿泊だけのプランにすればよかったのにと思いながら、美味しいはずなのにひとりでは味気ない夕食を掻き込む。 「はぁ、勿体ない」 聞こえるように大きく溜め息を吐いても、柴田は寝てしまったのか返事はない。逢坂は立ち上がって、隣の部屋まで行き、柴田の側に膝を突いた。その体が温まったせいか少し赤い頬をぺたりと触ると、微弱に睫毛が震えた。閉じられていた目がゆっくり開く。 「・・・良かった、ほんとに寝ちゃったのかと思った」 「なに、もう食ったの・・・?」 「うん、ひとりでご飯ってやっぱさみしいね」 「んー・・・ごめん、眠い」 「寝ないでよ、侑史くん、夜はこれからでしょ」 「いや、もう、寝たい・・・」 「いやってそんな・・・」 力の抜けている柴田の体に馬乗りになって、逢坂は昼間駄目だと言われた首筋に吸い付いた。柴田は鬱陶しそうに首を振って、逢坂から逃れようとする。 「馬鹿、こんなとこでして、シーツ汚しちゃ、迷惑だろ」 「いいじゃん、どうせもう、ばれてるよ」 「やめろってマジで・・・」 「だって侑史くん、肌蹴た浴衣超えろいよ、これそのまま寝れないよ、俺」 「そりゃお前、昼間散々寝てたからだろ、寝ろ、馬鹿。それに肌蹴させたのはお前だ」 「いいじゃん、侑史くん俺頑張ったでしょ、バイト頑張ってちゃんとお金貯めたし、ご褒美ちょうだい」 「あー・・・はいはい」 ぐいと柴田が逢坂の浴衣を引っ張って引き寄せると、そのまま唇に触れる。 「はい、寝る」 「それだけ・・・?ねぇ侑史くん、それだけなの?」 「うるせぇな、お前はもう。帰ってしたらいいだろ、そんなこと」 「帰ってしてくれるの?ねぇ何してくれるの?」 「・・・あー・・・ほんと眠いもう」 「でも侑史くん!浴衣の侑史くんは帰ったらいないよね?浴衣買って来るから着てくれる?着て何してくれるのねぇねぇ侑史くん!」 「うるせぇ・・・」 「侑史くん風呂場は?こういう時の為に部屋にお風呂ついてるんじゃないの!?」 「そんなわけあるか」

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