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第26話
「侑史くん、立てる?」
「立ったまますんの、いやだ、疲れる」
「だって他に仕様がないでしょ、俺に掴まってていいから立って」
腕を掴んで引っ張り上げると、柴田は渋々立ち上がった。逢坂はその腕を自分の首に回させて、正面から抱き締める格好にする。持ってきたローションを手の上に垂らすと、それが零れてヒノキの床にぱたぱたと落ちた。柴田が言っているのはそういうことだったのだろうと逢坂は思って、無意識に口角を上げていた。確かにこれでは、相手に確信を与えることにしかならない。
「なに、笑ってんの、お前」
「んーん、後ろ、触るよ」
ローションでぬめる指先を柴田の後ろ孔に這わせると、柴田の体がびくりと震えた。その無意識のそれに安心を与えるみたいに伝えるみたいに、少し屈んでその上気した頬に唇を寄せる。ちゅ、と音を立てて離れると、今度は柴田の方が動いて、唇がぶつかる。あ、と逢坂が思って動けないでいると、柴田は逢坂の下唇を自身の唇で引っ張るようにして、ぱっと離した。
「・・・口にちゅーするの嫌だって言ったのに」
「そこまでしたら同じだろ、ってかちゅーって言うな、気色悪い」
柴田が笑いながら言う。逢坂はもう一度柴田の頬に唇を落として、指をぐっと中に入れた。柴田の腕にぎゅっと力が入って、それが中に入っていくのに従って徐々に締まっていく。入口を広げるように動かして、ゆっくり奥に進む。もうそんなに丹念に時間をかけて解さなくても、そこは逢坂とのセックスを覚えるみたいに柔らかくなっていくことを逢坂は知っている。
「んっ、はっ・・・あぁっ・・・」
「苦しい?大丈夫?」
「ん、・・・だいじょ、うぶ」
耳元で聞こえる柴田の声は途切れ途切れで、どこか苦しそうでもある。ぽんぽんと左手で柴田の背中を撫でて、指を増やした。柴田の体がまたそれを敏感に察知するみたいに震えて、肩に爪でも立てたのか、びりびりと痺れるみたいな痛みが走る。
「んんっ、あ、あっ、し、ず・・・っ」
「なに?まだいいとこ触ってないよ」
「はぁっ、もう、も、ういいっ」
「やだ、もうちょっと触りたい」
真っ赤な耳を舐めるとくちゅっと水音が響いて、柴田の体がほとんど条件反射みたいにひくつく。正面から抱き合っていると、お互いの勃っているものが時々擦れるように触れて、それがまた甘い痺れを体に電流を流すみたいに伝えてくる。先程射精したばかりの柴田のそれが、また首をもたげているのも逢坂は知っていたが、ずっと気付かないふりをしていた。
「あっ・・・もう、やっ、あ、ん」
「やらかくなってきた、もういいかな」
「ん、もういい、はやく」
「やめてよ、侑史くん、そんな風に煽らないで」
ふふと逢坂が笑いを零すと、柴田は赤くなった顔を隠すみたいに、逢坂の首に巻きつけた腕を締めた。
「ん、分かった、ゴムつけるし、ちょっと待って」
「いいよ、そのままで」
「え?」
「そのまま入れろ、別に後で流せばいいから」
「・・・侑史くんどうしたの」
そんなこと今まで一度も言ったことがないのに、一体どうしたというのか。逢坂が目をぱちぱちさせて柴田の顔を覗き込むようにすると、柴田はそれを嫌がるみたいに顔を背けた。そして逢坂の左の鎖骨あたりに顔を埋めて、ぴたりと動かなくなる。
「どうしたって、別に、どうもしてねぇ」
「可笑しいよ、だってそんなこと、一回も言ってくれたことないじゃん」
「うだうだ言うならゴムつけろ、はやくしろよ、萎える」
「萎えたらまた勃たすから大丈夫だよ」
「・・・ムカつく、お前」
ははっと鎖骨に顔をくっつけたまま、柴田が笑いを漏らした。逢坂は柴田の背中を壁に預けると、右足を持ち上げて、後ろ孔に自分の性器を宛がった。
「ほんとに挿れるよ」
「ん」
顔を隠すものが何もなくなった柴田は、最後の抵抗をするみたいに顔を背けたまま短く答えた。ぐっと体を寄せるとずずっとそれが柴田の中に入っていく。肩を掴む柴田の手に力が入って、顔を背けたまま柴田は眉間に皺を寄せて短く息を吐いた。
「う、はぁ、あっ」
「これ、侑史くんの中、すごいよく分かる、ね」
「あぁっ、ん、んんっ」
「侑史くんも、いい?」
逢坂が笑うと、柴田は曖昧に頷いて俯いた。その額に唇を寄せる。
「どうしよ、はは、これに慣れたら、ゴムつけらんなく、なる」
「あっ、もう・・・しず、しゃべん・・・っあ」
「ごめんごめん」
根元まで柴田の中におさめて、一旦動きを止める。柴田は俯いたまま、そうしていないと酸素が足りなくなるみたいに、短く呼吸を繰り返している。
「全部、入ったよ」
「ん・・・」
柴田の指が逢坂の肩を過ぎて二の腕まで下りてきて、そこをぎゅっと掴んだ。俯いていた顔をふっと上げる。額に少し汗が浮いて見えた。逢坂はそれを舐めるみたいにしてキスをする。すると二の腕を掴んでいた柴田の指が、また強くそこを締めた。
「しず、か」
「なに」
「キス、して」
「・・・うん」
顔を寄せると、柴田はゆっくり目を閉じた。
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