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第27話
キスをする時、柴田が目を瞑ると逢坂はいつも安心した。受け入れられている気がすると、今でも時々思う。柴田が逢坂が触れようとする時に決まっていつも体を震わせるみたいに、自分もあの頃の記憶にまだまだ縛られながら生きているのかもしれないと思う。
「ふっ・・・ぁっ」
開けた口からとろりと唾液が零れる。柴田の小さい顎を伝って腹の上にぽたぽたと垂れるのを、逢坂はただ見やっていた。
「侑史くん、動いていい?」
「ん・・・うん」
俯いた柴田はこくりと首を縦に振って、逢坂の二の腕を掴んでいた腕を、また首に引っかけ直す。そうやっていちいち確かめないと怖いことも本当は、今までの名残だったのかもしれない。かりっと爪がうなじを掻いた。逢坂は柴田の左足を持ち上げた格好のまま、根元まで入っているそれをずずっと抜いて、それをまた打ち込んだ。柴田の痩せた体がびくびくっと腕の中で跳ねる。
「あっ、はぁ、っや」
「はぁ、ヤバい、これ」
「んんっ、あ、うっ・・・し、ずっ」
「すぐいっちゃいそ、う」
はは、と乾いた笑いが逢坂の口から洩れる。そして今日はまだ一度も触ってなかった、柴田の胸の突起をべろりと舐めた。驚いたのか後ろ孔がぎゅっと締まる。
「ひ、あっ、あっ」
「侑史く、ん、そんな締め、たら、俺イっちゃう」
「んんっ、や、めっ」
柴田が逢坂と壁の間の狭いスペースで体を捻るが、出口なんて、逃げ場所なんてこの場所にはどこにもない。逢坂はまた口元だけで笑って、柴田の胸の突起を口に含んだ。尖ったそこはどう見ても、まだ刺激を欲しがって震えている。堪らず柴田が、逢坂の髪の毛を引っ張った。
「いたっ!」
「や、め、お前、もう」
「なんで、好きじゃん、乳首きもちいでしょ?」
「・・・ん」
柴田は黙ったまま下唇を噛んだ。逢坂が口元だけで笑う。すると柴田がふっと視線を上げた。
「俺、のはいい、から、お前もっと、好きに動け、よ」
「・・・え?」
「しゃべ、らせんな、もう」
「なにそれ、ご褒美ってこと?」
顔を背けた柴田は、もうそれには返事をしなかった。逢坂はその頬に今日何度目か分からないキスをして、ふふっと笑った。
「馬鹿だな、侑史くん。侑史くんが気持ちいいのがそのまんま俺の気持ちいいことだよ。お言葉に甘えて好きにするから髪の毛引っ張んないでね」
笑うと柴田が眉尻を少し下げて、困ったような顔をした。したけれど、もう柴田は何も言わなかった。沈黙は了解ということなのだろうか。都合の良いように解釈をする。うなじに指先が食い込む。逢坂は顔を近づけて柴田の胸の突起を口に含んだ。びくりと柴田の体が震える。すっかり尖ったそれを宥めるように舐めるけれど、それはどんどん尖ってもの欲しそうに上を向いている。
「あっ、んっ、はぁ」
「はは、ほんと、すごい、締まる、これ」
「あ、んんっ、しず、も、う」
「ごめん、こっち?」
すっかり勃ち上がって先端から先走りを零しはじめている柴田のそれを左で包むようにすると、ぎちっとうなじに爪を立てられた。
「あれ、また、違った?」
「・・・っ、すぐ、出る、から・・・」
「いいよ、好きなだけイって」
真っ赤な耳を食んで、柴田の性器を包んでいた手の動きを再開させる。柴田の体が微弱に震えて、快感を伝えているようだった。
「俺、っはぁ・・・ばっか、や、だ・・・ぁっ」
「はは、でも、俺ね、いっちゃった後の侑史くん、揺さぶんの、好きだよ」
「っ、はぁっ、ああっ」
「どこもかしこも、敏感で、どこ突いても、イイ顔する、し」
「あっ、あっ・・・しず、・・・・」
柴田が言葉を切って、ぐっと息を止めたのが分かった。逢坂の手の中の柴田の性器が震えて、は、と柴田が息を吐きだすと同時にそれも白濁を吐き出す。ぱたぱたと手のひらから零れて、ヒノキの床を汚していく。逢坂は手についた精液をぺろりと舐めた。
「侑史くん、顔上げて」
「・・・んっ・・・」
「顔見せて、気持ちいい顔見せてよ」
「・・・お前、ほんと・・・いい趣味、してんな」
「はは、そうでしょ、動くから、顔上げててね」
にこっと逢坂は笑って、柴田の首筋に唇を寄せてそこをきつく吸った。
「あっ・・・」
「ね、中に、出して、いいの?」
「・・・ん、いいよ・・・っぁ、あっ」
「はは、侑史くん、ほんと、今日やさしー」
「ばか、いつも・・・っあ、はぁっ・・・だろ・・・っ」
荒い呼吸の中で、柴田が笑う声が聞こえる。そうだねと呟いた声が柴田に聞こえたのかどうか分からない、何度目かの快楽に震えて、お互いの呼吸しかもう耳は捉えなくなっていたから、もしかしたら柴田は逢坂のそれを聞くことはなかったのかもしれない。
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