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王子さまとの出会い
一人になってもまだ心臓がドキドキして。
顔も火照ったまま。なかなか熱が引かなかった。どこを見ていいか分からなくて視線が宙をさ迷った。そのときーー
ガシャーンと派手に皿の割れる音が聞こえてきて、いてもたってもいられず車イスを押し、恐る恐る彼が向かった台所に近付いた。
怒られるのを覚悟で、そぉーと中を覗き込んだ。
綺麗に片付けられているリビングとは対照的に台所はかなり散らかっていた。
シンクに汚れたお皿が山積みにされてあって、カウンターにはトーストのパンくすが散らばっていた。
「実は包丁をあまり持ったこともなくて。買ってきた弁当を温めようとしたんだけど……」
頭を掻きながら照れ笑いする彼と目が合った。
さっきとはまるで違うギャップの差に驚きながら、ぷぷと思わず笑ってしまった。
「笑ったりしてごめんなさい」
「良かった。きみの笑う顔がやっと見れた」
「え?」彼の言葉にハッとした。
「自分の名前、思い出した?」
「はい。長澤四季です。えっと漢字の四に、季節の季です。名字は……」
「名字はいいよ。あとで教えてもらうから。四季か?きみみたいに可愛らしくて素敵な名前だね。年は?」
「18です」
「じゃあ、ちょうど一回り下だ。カフェオレくらいなら何とか作れるから、ちょっと待ってて」
テーブルにあった椅子を移動してくれた。
雨宿りさせてもらったお礼を少しでもしたくて腕捲りしてシンクにたまったお皿を洗おうとしたけど、指先が蛇口に届かなかった。
懸命に腕を伸ばしていたら、音もなく腕が伸びてきて水を出してくれた。
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは俺の方だ。ありがとう四季。週一回家政婦が掃除に来てくれるんだ。一人暮らしが長いんだけど、いまだにどうしても家事が苦手でね」
「そうなんですね」
そんな他愛もない会話も彼と一緒なら不思議と楽しくて。時間が過ぎるのも忘れてしまうくらいだった。
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