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彼の秘書

空耳かも知れないけれど、頭上から啜り泣くような声が聞こえてきて。 おそるおそる顔を上げた。 「たく、泣くほどでもあるまい」 「だって、四季くんが和真のことこんなにも大事に想ってくれているのよ。それが嬉しくて」 和真さんのお姉さんがエプロンで目頭をそっと押さえた。 「ごめんなさい、また変なこと言ってしまって……空気が読めない。人の話しが聞けないってよく言われるんです。すみません」 「嬉し涙だから四季くんは悪くない。和真と付き合う子は……」 話しがまだ終わらないうちに、カランカランとドアベルが鳴ってお客さんが入ってきた。 「いらっしゃ……ーー」 ドアの方を向いた和真さんのお姉さんのご主人の顔がみるみるうちに険しくなっていった。 「本日は貸し切りです。申し訳ありませんがお帰りください」 怒りに震える手をぎゅっと握り締め、そのお客さんにゆっくりと声を掛けた。 和真さんのお姉さんが僕の前に立っていて誰が入ってきたか全く見えなかった。 「和真といい、お前らがそうやって甘やかすからそこにいるガキが付け上がるんだろうが!素性も知れぬ田舎者の下賤が和真に馴れ馴れしく話し掛けるな‼虫唾が走る」 「副島、四季くんを侮辱しないで」 和真さんのお姉さんが怒りで声を震わせた。 「和真が誰と付き合おうがあなたには関係ない。口出ししないで」 出会って間もない僕なんかのためになんでここまでしてくれるの? 僕は何を言われても構わない。和真さんの側にいれるだけで幸せだから。 「副島、あまり騒ぐと警察を呼ぶわよ。それとも和真の方がいい?」 和真さんのお姉さんはどんなに睨まれようが全く動じなかった。

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