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彼の秘書

「折角来てていただいたのに申し訳ありませんがお帰りください」 和真さんのお姉さんのご主人がドアを静かに開けた。 「(かい)くんありがとう。開けてくれて」 初老の夫婦が笑顔で店に入ってきた。 副島さんは和真さんのご主人を軽蔑するかのようにしばらく睨み付けると、鼻でせせら笑い何事もなかったように出ていった。 「櫂くんも人がいいんだから」 初老の夫婦がやれやれとため息をつきながらカウンター席に腰をおろした。 「四季くん怖かったでしょう?」 和真さんのお姉さんに言われ、はっとして我に返った。 「ご飯のお代わりはたくさんあるからね。遠慮しないでどんどん食べてね」 何事もなかったようにテキパキと接客する姿を眺めながら、ハンバーグを一口大に切り分け口に運んだ。 頬っぺたが落ちそうなくらい美味しかった。 ちょうどそのとき、ポケットにいれておいたスマホがブルブルと振動した。もしかして和真さんからかな?急いで取り出し画面を覗き込むときよちゃんからだった。 「和真からでしょう?早く出てあげないと駄々を捏ねられるよ」 和真さんのお姉さんにくすくすと苦笑いをされた。さすがに違うんですとは言えず、そのまま電話に出た。 『今、大丈夫?』 「うん」初老の夫婦に迷惑を掛けないように、なるべく小声で返した。 『園に四季の話しを聞かせてほしいって、弁護士を名乗る男から電話があったみたい。園長先生が個人のプライバシーに関わることは教えることが出来ないってすぐに電話を切ったみたいだけど………朝宮さんを決して疑う訳じゃないけど、本当に彼信用して大丈夫なの?』 「えっと……その………」 はっきりと答えることが出来ない自分が不甲斐なかった。

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