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彼の婚約者
和真さんと何を話したか、緊張してほとんど覚えていない。
事故の影響でいっこうに進まない車の列をぼんやりと眺めているうち、サービスエリアの駐車場に着いていた。
「この先にあるスマートインターから下りて一般道で行こう。あと1時間も掛からないと思う。疲れただろう?大丈夫?」
「僕は大丈夫です。和真さんの方こそ大丈夫ですか?」
「俺は運転しているだけだから。四季がいてくれたから苛立つこともなく退屈することもなかった。ありがとう」
和真さんが柔らかな微笑みを浮かべながら助手席のドアを開けてくれた。
「休憩しよう」
「はい」
「しっかり掴まってて」
和真さんに横に抱っこされ車椅子に乗せてもらった。
人の目が気になったけど和真さんは特に気にしている様子はなかった。
「四季をいろんなところに連れて行ってあげたいんだ。だから、おもいやり駐車場利用証の申請をしようと思うんだ」
スーパー、病院、公共施設等の入口付近には、僕みたく歩行が困難な人が駐車するためのスペース(車いすマークのある駐車場)が設置されている。
「申請自体はそんなに難しくないらしいよ。いいかな?」
「はい。お願いします」
「じゃあ週明けに役所に行ってみるよ。何か食べようか?」
和真さんに建物の前にずらりと並ぶ露店に連れていってもらった。
和真さんと過ごす時間は楽しくて。
あっという間に過ぎていく。
いつもなら人がいすぎて気持ちが悪くなるのに、不思議と人混みも気にならなかった。
たくさんありすぎて何を食べようかと悩みながらキョロキョロと見回していたら、
「あら和真じゃない」
若い女性に声を掛けられた。
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