50 / 588

どうしよう、こんなにも誰かを好きになるなんて

目の前の信号機が赤に変わり、横断歩道の手前で車が静かに停車した。 「ごめんな四季」 カフェを出てからずっとむすっとしてて、無言でハンドルを握っていた彼がやっと口を開いてくれた。 「お姉さんと仲が良くて羨ましいです」 「そうか?ただのお節介やきだよ」 食後のデザートを運んできた結お姉さんに、 『和真、真っ直ぐ四季くんを家に送り届けるのよ。いきなりホテルに連れ込んだりしちゃ駄目よ。いい、分かった?』 そう言われ飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになり、ごほごほと噎せていた。 『ちょっと、姉さん‼』 『だって和真が四季くんを泣かせないが、心配なんだもの』 『姉さんは過保護すぎるんだ』 『そうかしら……』 しれっとして答える結お姉さんに、和真さんは返す言葉が見付からないのかかなり困惑していた。 「俺は生半可な気持ちで告白したりしない」 信号機が青に変わってもなかなか発車しなくて。 ちらっと彼の横顔を見ると微かに微笑んだ気配があった。その直後、後ろから大きなクラクションを鳴らされ、彼が慌てて車がスタートさせた。 「かず、ま……さん、あ、あの……」 右手に彼の左手が静かに重なってきて、思わず身体を強張らせると、 「俺が怖い?」 囁くような声が耳元に落ちてきた。 僕はぎゅっと目を瞑ったまま頭を振った。 「こ、怖くないです。でも……」 そのとき脳裏に、2年前の光景がフラッシュバックした。 こんな僕を好きって言ってくれた大好きな彼の手なのに……なんでなんで? わなわなと震えながら「ごめんなさい」を何度も何度も繰り返した。

ともだちにシェアしよう!