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こんなにも誰かを好きになるなんて

「家に帰ろうか?」 彼が運転手席に座り直しハンドルに手をかけた。 「あの、和真さん」 てっきり車椅子を下ろしてもらえるのかと思っていたから慌てた。 「一緒に暮らしてくれるんだろう?俺の聞き間違いかな?」 「いいえ」ぶんぶんと首を横に振った。 「それなら良かった」 なにもなかったように動き出す車の中、僕は黙っていることしか出来なかった。 「おいで四季」 そしてほどなく到着した彼のマンションの駐車場。 昨日は熟睡しててそのときの記憶が全くないけど、同じように抱っこされたまま、家まで運ばれたかと思うと顔から火が出るくらい恥ずかしかった。 「和真さん、車椅子……」 「あとで運んでおくよ。きみが先だ」 背中と脚を支えてくれる腕に力が込められたかと思うと、彼の顔がふっと近付いた。 目と鼻の距離で見詰められ、あ、あの………全身を緊張させてしまった途端、和真さんが大きく苦笑し、微笑んだ。 「別に取って食べたりしない。四季が好きって言ってくるまで我慢できるか分からないけど、待つつもりだから。あ、でも……」 そこで一旦言葉を止めると、さらに間近からみつめられて、息を呑むと、チュッと触れるか触れないくらいの口付けが頬っぺに下りてきた。 「か、和真さん!」 柔らかな感触と、彼の体温。 それらに真っ赤になっていると、和真さんが息のかかる距離のまま、微笑んだ。 「ハグとキスだけはいいよね?駄目かな?」 「………」 熱っぽい声と視線は、一層僕をどぎまぎさせる。 心臓がいまにも破裂するんじゃないか、そのくらいドキドキしながら、気付けばこくりと小さく頷いていた。

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