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こんなにも誰かを好きになるなんて
「四季が心配で昨日何回も電話をしたんだよ」
翌朝、彼に送ってもらい出社すると、きよちゃんにすぐに掴まった。
「着信があったのに気付いたのが夜の9時過ぎで……遅い時間に電話をするのは失礼かなって思って……きよちゃん、心配をかけてごめんなさい」
下げられる所まで頭を下げた。そしたらきよちゃんが急に慌て出した。
「頭を上げて。頼むから」
ちらちらと、しきりに駐車場の方を気にしていた。
「誰かいるの?」
きよちゃんの視線を辿ると、
「あれ、なんで?お仕事に向かったはずじゃ……」
そこにいたのは紛れもなく和真さんその人だった。
ちょうど出社して来た社長と笑顔で立ち話をしていた。
「どうしたの?」
きよちゃんに怪訝そうに顔を覗き込まれた。
「あのね、きよちゃん。びっくりしないで聞いてくれる?」
「よく分からないけど……うん、分かった」
「えっと……」
もぞもぞしながら言葉を継いだ。
「好きだって和真さんに言われた」
「そっか、で、四季はなんて答えたの?」
「まだ答えていないけど、あとね、プロポーズされた」
「は?出会ってまだ一週間も経ってないよね?」
「うん、そうなんだけど」
「朝宮さんを疑う訳じゃないけど、本当に大丈夫なの?」
きよちゃんに聞かれてすぐに答えることが出来なかった。
「四季、朝宮さんと付き合っているなら、そう言ってくれればいいのに。水臭いぞ」
彼の車が走り去り、社長が事務室に顔を出した。
「すみません」
「聞いたぞ。年内には結婚式を挙げる予定だって。一緒に暮らし始めたところだって。まぁな、相手が朝宮さんなら、四季のこと大事にしてくれるだろう。本当に良かった」
僕にとって親代わりの社長が嬉しさのあまり涙ぐんでいた。
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