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忍び寄る殺意
「そういえば須釜製作所の岩水から電話があったぞ」
「あ、は、はい」
湯沢常務に声を掛けられ、中を確認しないまま、慌てて引き出しをしめた。
たもくんに急いで電話をすると、
『きよちゃんから鳥の死骸のことを聞いて、思い出したんだ。ちょうど一週間前だ。四季の写真を持った変な男が丸和電機の回りをうろうろして、この男を知らないか?そう聞いて歩いていたんだ。武田課長が、暇な奴もいるもんだ。そうボヤキながらすぐに警察に電話をしていた』
「そんな…………」
スマホを握り締めたまましばらく呆然となってしまった。
武田課長に一度ならず二度も助けてもらったなんて。あとでちゃんとお礼を言いにいこう。
『なにか遭ってからでは遅い。当分の間、王子さまに送り迎えを頼んだ方がいいと思って、それで電話をしたんだ』
「心配を掛けてごめんなさい。あのね、あとで話しがあるんだけど」
朝宮さんからプロポーズされて、一緒に暮らしはじめたって、たもくんにちゃんと話さなきゃ。
『分かったよ。王子さまに焼きもちを妬かれても困るから、いないところでな』
「うん、分かった」
湯沢常務の視線がちくちく背中に突き刺さる。私用の電話は厳禁だもの。
すぐに電話を切った。
仕事が終わり、迎えに来てくれる彼を駐車場で待っていたときだった。
気のせいなのかな………
微かに眉を寄せ、息をつめ、そぉーっと辺りを窺った。
誰かにじっと見られている気がしたんだけれど、気のせいかな?
再びちらと周囲に流すも、今度は見られている気配はしなかった。
やっぱり気のせいかのかな?
緊張が解けず、膝の上に乗せているリュックサックを片手で抱え直した。
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