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忍び寄る殺意
彼が運転する車が静かに駐車場に入ってきた。
「ごめん遅くなって。待ったよね?」
「いいえ、大丈夫です」
笑顔で車から下りると助手席のドアを静かに開けてくれた。
「大丈夫……じゃないはずだ」
「和真さん、あ、あの……」
「車に乗ってからにしよう。ここだと人の目がありすぎる。ほら、ちゃんと掴まって」
言われた通りにすると、リュックサックを先に中に入れてくれて。
それからお尻の下に手を差し入れ、お姫さま抱っこで助手席へとゆっくり移動してくれた。
パートのおばちゃん達の視線が否応なくこっちへと向けられている。
それが恥ずかしくて、リュックサックを両手で抱き締め下を向いた。
「四季君とはその」
「藪から棒に聞かないのよ」
「だって気になるじゃない」
「四季とは結婚を前提にお付き合いさせて頂いています。申し遅れましたが、オークポリマーの朝宮と申します」
「オークポリマーって、あら、うちの納品先じゃないの」
「あらまぁ、奇遇ね」
「これからも四季を宜しくお願いします」
話し声が聞こえてきて。
そぉーと顔を上げると、彼が爽やかな笑顔を振り撒きながら、おばちゃんたちの容赦ない質問攻めにも余裕で応じていた。
「和真さん」
運転手席に乗り込んできた彼に思わず声を掛けていた。
「こそこそ隠れて付き合うより、俺は四季と堂々と付き合いたい。だって、きみは、俺の一番大好きなひとだもの。じゃあ、帰ろうか?」
にっこりと微笑み返され、もうそれだけで胸がどきどきしてきた。
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