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忍び寄る殺意
「優しくされて浮かれていたのかも知れない。和真さん、ごめんなさい。やっぱり僕はあなたの恋人にはなれない」
嗚咽で舌がうまく回らない。それでも和真さんに繰り返し謝った。
「ごめんなさい……っ、ごめ……ごめんなさ……」
深く頭を下げると、涙がぽたぽたと音を立てて膝に落ちてきた。
どれだけ責められても構わないつもりで頭を下げ続けた。
けれど次の瞬間、僕の耳に聞こえてきたのは、
「顔を上げて」
予想もしていなかった穏やかな声だった。
「謝らなくていい。きみはなにも悪いことをしていないじゃないか。きみは安藤夫婦に嵌められたんだ。警察も元警察官だった安藤光二の証言を鵜呑みにし、ろくに捜査もせず。きみをはなから容疑者扱いだ。弁護士から詳しい話しを聞いたんだが、思い出す度に腸が煮えくり返るよ」
「僕を担当してくれた家庭裁判所のひとが、なんかおかしいって、一から調べてくれて」
「いい人に巡り会えたな」
「うん。弁護士さんにもよくしてもらった。ごめんなさい、泣いてばかりで」
手の甲で涙を拭った。
「四季」彼が箸を置き、静かに立ち上がった。
「きみは悪くないのに……誰にも言えなくて、辛かっただろう。ありがとう、言いにくいことを話してくれて」
頭を撫でてくれる大きな手と優しい眼差しに、胸が熱くなり、一度は止まったはずなのに。涙があとからあとから零れ落ちた。
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