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忍び寄る殺意
「いま、赤ちゃんって聞こえたんだけど」
和真さんがひょっこり顔を出した。
「四季くんがね、和真との赤ちゃんが欲しいんだって」
「そんなこと一言も言ってないです」
慌てて首を横に振った。
「四季くん似の、すっごく可愛い赤ちゃん産まれるんじゃないかな。ね、和真。ちょっと聞いてる?」
「聞いてる」
ぶっきらぼうに答えると、冷蔵庫を開けて飲み物を取ると、ムスッとしたままリビングに戻っていってしまった。
「どうしよう和真さんのこと怒らせてしまった」
「怒ってないよ。恥ずかしがってるだけよ」
「え?そうなんですか?」
「あぁ見えて不器用だからね和真は。とくに好きな子の前では素っ気なく振る舞うのよ。ツンデレくんだからね和真は」
結お姉さんがなにかを思い出したみたいで急に笑い出した。
あれからますます気まずくなってしまって。声すら掛けることが出来なくて。会話という会話をほとんどしていない。
結お姉さんと櫂さんを駐車場まで送っていった彼が戻ってきたのはそれから10分くらい過ぎてからだった。
介助なしではお風呂に入れないからシャワーを軽く浴びる程度で簡単にお風呂を済ませていた。
さっき結お姉さんから電話が来たとき、どうやってお風呂に入ってるの?と聞かれ介助用の椅子がここにはないからすのこを敷いてその上に抱っこで移動して………と彼が説明したら、知り合いが使っていたもので悪いけどと言って椅子を持ってきてくれた。
だから今日もいつも通りシャワーを浴びて介助用の椅子から車椅子に移動しタオルで濡れた体を拭いていたら、ガタっと音がして、顔を上げたら、彼と目が合った。
「寝室を覗いたらいなかったから。ごめん、覗き見するつもりはなかったんだ」
くるっと後ろを向くと、
「いきなり一緒に風呂に入るのはさすがにお互い恥ずかしいから、それ以外でもし介助が必要なときは遠慮しなくていいから言ってほしい」
「ありがとう和真さん」
「だからいちいち礼はいらないって。先に寝て待ってるからゆっくりおいで」
そう言い残すと何事もなかったように浴室から静かに出ていった。
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