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忍び寄る殺意

寝ている彼を起こさないようにそぉーと静かにベッドに移動したら、 「まだ生乾きじゃないか。ちゃんと乾かさないと風邪をひくぞ」 彼がむくっと体を起こしたからびっくりした。 「ドライヤー持ってくる。少し待ってろ」 そう言うとわざわざ浴室に取りに行ってくれた。 「さっきのことなんだけど」 ドライヤーで髪を乾かしながら彼がぼそっと呟いた。 「思いもよらないことをいきなり言われたから、どう答えていいか分からなかったんだ。気を悪くさせてごめんな」 手櫛で髪を鋤きながら言葉を継いだ。 「きみを好きになったのは決して体目的じゃない。誤解されたくないから、そのことをどうしてもきみに伝えたかった。身内の恥を晒すようだが、俺の父は女性関係が派手で母はいつも泣かされていた。別々の女性にそれぞれ子どもがいると知った母は次第に精神を病むようになって、お爺ちゃんが朝宮の家から強引に実家に連れ戻したんだ」 「和真さん、ちょっと待って」 別々の女性にそれぞれ子どもがいたってことは、つまり結お姉さんと和真さんって母親が違うってこと?頭のなかが混乱して軽いパニックに陥った。 「結お姉さんとはその、つまり………」 「母親が違う。姉の実母は父に捨てられたあと、姉をお爺ちゃんに託し姿をくらました。いまだ消息が分からない。俺は父とは違う。もし好きな子が出来たら、何がなんでもその子だけを一生涯愛し抜き、泣かせるような真似は絶対にしない。もし家族が増えたら全力で守り抜く。そう固く誓ったんだ。四季は気付いてないと思うけど、今月に入ってから何度かきみを見かけるようになって、最初はさほど気にも止めなかったけど、本当は気になって仕方がなかった」 「へ?」 思いがけないことを言われ驚きのあまり声が裏返った。

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