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忍び寄る殺意

翌日ーー 「ねぇ、きよちゃん」 長谷川さんが席を立って現場に行ったのを確認してからきよちゃんに小声で声を掛けた。 「ん?どうしたの?」 「昨日、確認したかった僕が悪いんだけど、オークポリマーさんに送ろうと思っていた見積書、どこを捜しても見当たらないの。パソコンの中に見積書のデーターがあるから確認しようとしたらロックがかかって開かないの。メモリーカードもなくなってる。どうしよう。根拠もないのに長谷川さんを疑いたくないし……」 きよちゃんには出勤する前に昨日あったことをメールで連絡した。 「そっか。う~ん」 ごめんねきよちゃん。やらなきゃいけない仕事がたくさんあるのに。悩ませてしまって。 「あ、そうだ!武田課長に相談したらどうかな?オークポリマーの営業に知り合いがいるって、前に言ってたような気がするんだ。焦ってもしょうがない。まずは落ち着こう」 「うん。もう一回捜してみる」 自分の机に戻り引き出しを開けようとしたら、 「長澤、ちょっといいか」 武田課長が音もなく現れたから腰を抜かすくらいビックリした。 「場所借りるぞ」 生産技術課の将来有望な若手の2人が、うんともすんともいわなくなったパソコンの前に立ちなにやら操作をはじめた。 「オークポリマーの営業には俺から連絡しておく。橋本の言う通りだ。まずは落ち着け」 ぽんぽんと肩を軽く叩かれた。 その直後、長谷川さんが事務室に戻ってきた。一瞬、武田課長を睨み付けたけど、何事もなかったように机に座りパソコンに向かった。

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