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忍び寄る殺意
「それは逆恨みだよ」
「さか、うらみ?」
「聞いた事ない?」
うん、と頷くとそっか、少し困ったように苦笑いされた。
「自分に非があったとしても、それを認めようとせず、逆に酷いことをされたと勝手に思い込むんだ。依願退職に追い込まれた。重要なクライアントを失い社会的信用も失った。悪いのは自分たちなのに、それを棚に上げ、ひどい目に遭わせられたって」
ハンドルに手を置いたまま彼が厳しい表情でじっと前を見つめた。
「こう見えても腸が煮えくりかえるくらいに腹が立っている。いい年した大人が、寄ってたかって立場の弱い子どもを苛めて。何が楽しんだか。守るからーー何があっても絶対にきみを守るから。だから、どんなに嫌がらせをされようが負けちゃ駄目だ。一緒に乗りこえよう」
嘘偽りのない彼の言葉が涙が出るくらい嬉しかった。
「なんか、プロポーズしているみたいだな」
彼がクスリと小さく苦笑いした。
「今度の週末アパートの荷物を片付けよう。あの後も悪質な悪戯が続いているらしい。住人が気味悪がっているみたいだ。大丈夫だよ。俺も一緒に手伝うから」
「ありがとう和真さん」
彼の然り気無い優しさ、気遣いが何よりも嬉しかった。
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