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忍び寄る殺意

辺りを見回したけど彼の姿は見当たらなかった。僕の願望が生み出した幻聴だったのかもしれない。 おとーしゃん、おかあーしゃん、あつい。あついよ。あしがいたいよ。 あのときと一緒だ。うとうとしていたら突然キキキーッというブレーキ音が聞こえてきて。何かが後ろからドーンとバスにぶつかってきた。高速道路を走行していたバスはコントロールを失い猛スピードで壁に突っ込み炎に包まれながら落下した。当時僕は5歳。幼すぎてほとんど覚えていない。唯一覚えていることはお父さんとお母さんが頭から血を流しながら、泣きながら、ごめんねごめんねって何度も謝りながらずっとずっと抱き締めてくれていたこと。 図書館でようやく見つけた当時の新聞記事には大型トレーナーの運転手の脇見運転が事故の原因である事と僕以外の乗客乗員43名全員が亡くなった事が書かれてあった。その中にはお父さんとお母さんも含まれている。 なんで僕だけが生き残ってしまったの? この世にたったひとり。辛くて苦しい日々ばかり。心の中の天気はいつも雨ばかり。一度だって晴れたことがない。 これでようやくお父さんとお母さんのところに行ける。 気付けば自分から炎に向かって、ゆっくりとハンドリムをこいでいた。 「……ーき、四季!」 どうせまた幻聴だ。彼がここにいるはずないもの。 「正気を取り戻すんだ。頼むから俺を一人にしないでくれ」 今度ははっきりと聞こえてきて。 びくっとして立ち止まり後ろに向きを変えると、お日さまみたいにぽかぽか温かくて、心地良い腕にすっぽりと包み込まれていた。 「しっかりと首に掴まってろ!絶対に離すなよ!」 体がふわりと宙に浮いた。

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