84 / 588

忍び寄る殺意

「ちょっと!私の可愛いに近付かないで!」 結お姉さんがしっしっと手を振った。 僕が我慢すればいいだけだから。結お姉さんもういいよ。首を横に振った。 「用件は何ですか?」 僕に近付こうとした刑事を彼と櫂さんが引き留めてくれた。 「この男に見覚えはないか、確認を取りたかっただけだ。まさか、2年前の事件の被疑者が被害者だとは、皮肉なものだな」 片方の刑事がくくっと鼻で笑った。 「お前をいまだに恨んでいる連中は多い。命を狙われるのも当然といえば当然か」 もう片方の刑事もせせら笑いを浮かべた。 「あなたたちはそれでもーー」 「和真くん、挑発に乗っちゃダメだ。それこそ相手の思うつぼだ」 怒りを露にする彼を櫂さんが必死で止めた。 緊迫する病室内。 ちょうどその時思わぬ助け舟が入ってくれた。 「関係者以外面会謝絶ですよ。部外者は退出してください」 白衣を着た男性のお医者さんだった。 「えっと」 「私、部外者じゃありませんよ。四季の姉です!」 「その夫です」 結お姉さんと櫂さんが右手を挙げた。 「あ、そうですか。初めまして担当医の中川です」 軽く挨拶すると今度は刑事たちを迷惑そうにチラッと見た。 「すぐ終わる」 刑事が彼に写真か何かを乱暴に手渡すと、バタンと足で扉を開け渋い顔で病室を出ていった。 「この病院にはヤクザがいるのかって入院患者や、その家族から苦情が殺到している。困ったものだな」 やれやれとため息をつきながら中川先生も病室をあとにした。

ともだちにシェアしよう!